「主客一体」っていう言葉がありますよね。
もてなす側の主と、もてなされる側の客、双方の努力によってその場その時を素晴らしいものにしよう、趣深いものにしようーーみたいな意味の。
もともと茶の席で使われた言葉らしいのですが、僕はこの考え方がすごく好きです。
「客は神様」という表現があるように、もてなされる側が上位なのだから客はふんぞり返っていればいいよなあ、というのがふつーの感性かと思っていた僕にとってこの考え方は新鮮でしたし、レストランなど、サービスを受けた際に頭を下げる日本人と下げない欧米人の差は何なのかという疑問にひとつ答えてくれる概念として大事だなあと。
(金でサービスを買うレストランと茶の席は全く異質ではあるかも知れませんが。)
それから文藝春秋の1月号にイモトアヤコさんが「もてなされる品格」っていう題で寄稿されているんですが、その「もてなされる品格」っていう表現も好きです。
イモトさんが自宅に招待したある方が、イモトさん手作りの料理、おもてなしをすごく褒めてくれて苦労が報われた、その方のもてなされる品格を感じたーーみたいなことを書かれてます。
失礼ながらそれまでコモドドラゴンを追いかけ回しているイメージしかなかったのですが、その寄稿を読んでからはすっかり彼女のファンです。
ーーで、なぜ唐突にこんなことを言うのかというと、僕の先輩がそういった「もてなされる品格」を備えた人で素敵だあ…という話につながるわけです。
僕の周りだけでしょうか、変に腰の低い人が多いように思います。
変に腰が低いとは、いつも愛想よく接してくるというか、こちらの機嫌を伺うように接してくるというか、こちらが目下にも関わらず常に気を使われていて逆に申し訳なく感じてしまうような。
例えばこないだ大学であった、ある先輩とのエレベーターでのできごと。
A先輩とします。
僕は開閉ボタンの前に立って、降りる際はA先輩を先に降ろそうと思っていたんですが、目的階についてもその先輩がいつまでも降りないんですよ。
あれ、と思ったら先方が別の開閉ボタンの開ボタンを押して僕が降りるのを待っていてくれたみたいで、お先にどうぞと言いたかったのですが僕がドア付近、A先輩が奥の配置だったため
「あ、すみません汗、ありがとうございます」
と言って後輩である僕が先に降りることになってしまいました。
先に降りちゃって申し訳ないなとか、
他に人が乗ってきたわけでもないのにどうしてわざわざ奥に行ったんだろう?とか、
心配性なんで当時いろいろ考えましたが大して年が離れているわけでもなし、大学生同士でそこまで気を使うのも逆に変かと。
ただ、A先輩とは常にそんな調子なんです。
何か仕事を振ってくる際もすごく申し訳なさげに言ってきたり。
「ごめんね、今時間いい?ごめんごめん。悪いんだけどさ、この試薬買っておいてくれない?今度の合成実験で必要だからさ。時間のある時でいいから。悪いね」
みたいな。
何回謝るねんと。
眉間は終始ハの字です。
一方で別のB先輩は対照的で、先輩然とした人です。
堂々としているというか、後輩に対しては目上の人間として、一定の距離を保って接しているというか。厳しいことも言うときには言う人です。
ただ決して威張っているというわけではないです。
何かミスをした際には後輩にも間違いを認めてごめんと言えるような人で、そういう意味では周囲から自分がどう見えるかをすごく考えている人だなあと。
また気を使っているという点については、A先輩と同等かそれ以上に気を使っているのではと感じます。
というのも、またエレベーターでの例えになりますが、いつもB先輩が先に降りてくれます。
B先輩が先に降りるのが自然なようにしてくれると言ったほうが良いかもしれません。
ややこしくてすみません。
でもそういうことなんです。
エレベーターという箱の中で、僕と先輩、開閉ボタン、そしてドアの位置関係を考えつつ、いかに先輩である自分が先に降りるかを計算してるんですよだぶん。たぶんですけど。
おかげで僕としては気が楽です。
先輩を先に通すという、後輩としての役目を自然に果たせるので。
こうしたA先輩とB先輩との違いとは?ということを最近考えていたのですが、それはどうやら先程述べた「もてなされる品格」の有無ではと考えるようになりました。
ここでの主はB先輩、客は後輩である僕です。
逆に、主は僕、客はB先輩でもいいでしょう。
もてなし、もてなされるという互いの役割を果たすーーそうした主客一体の考え方に似た空間がB先輩と一緒にいる際に感じられるということです。
ちなみになんですが研究室ではB先輩よりもA先輩の方が評判が良かったりします。
特に同期の間では。
Aパイセンは我々後輩にも優しくて、人当たりもよくて、イイヨネ〜!!って。
僕も最初はそう思っていたのですが、最近は違います。
こう言っては性格が悪いかも知れませんが、A先輩の「優しさ」は「保身」に見えなくもない。
先輩としての「品格」で言えば、僕としてはB先輩に分があるなと思います。
「実るほど頭を垂れる稲穂かな」の「頭を垂れる」というのは、へつらうことではないんですよね。
……というわけで、僕もそんな品格ある素敵な先輩になりたいものだと思ったり思わなかったり、そんな今日このごろですというお話でした。
おわり
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